思いを形にすることで、見えてくる未来とは? ともに建物を作り上げてきたデザイナーの森井良幸さん、手塚清さんに話を聞きました。 (聞き手:サカキテツ朗)
サカキ:お2人は前から色々なお仕事をされていますね。仕事をされてどれくらいですか?
森井:8年ですね。
手塚:最初に会ったのはニューヨークでした。ニューヨークのとてもマニアックなバーに行ったときに、一緒に行っていた友人が森井さんを呼んだわけです。
森井:僕はニューヨークに住んでいたわけじゃないですけど、たまたまニューヨークにいて(笑)
手塚:面白い人を呼ぶわって言って、森井さんが来た。
サカキ:そこから実際に仕事されるのはいつぐらいですか?
手塚:結構経ってからですね。ただ、森井さんの前で照れるけど、その時にこの人と将来仕事するかもしれないとちょっと思ったんです。その時は言わないけど。
森井:そうだったんですか。4、5年経ってお仕事しましたね。
サカキ:今回仕事するのは初めてではないし、何がポイントかなど、理解しあっていたのでしょうか?
森井:理解しながら、わからないところもありながら。
手塚:設計の人とやっていて思うのは、何かを作ることに対しては毎回違いますね。ただ、何回も仕事をしてきたのでわかりますけど、森井さんは極めて商業的な部分も持っているし、アーティスティックなところもある。今回は僕がこういうものを建てたい、ではなくて何を建てようかという話から始まりました。
森井:これまでとは業態というか内容が違うので。店を作るならその流れで作れるんですけど、そうじゃなかった。
サカキ:そんな中で、どんなものを作り上げようとか共通するキーワードはありましたか?
森井:手塚さんからは、京都で初めて建物を建てることになったので、しっかりとやりたいという話を聞きました。
手塚:京都の鴨川沿いに末長くありつづけて役に立っていけるようなものを作りたいと話しました。
サカキ:「なるほど」と思ってイメージがすぐに?
森井:そんなわけないですよ(笑)。そこから何パターンか詰めましたね。大きくいうと3、4パターンありました。地下なしの3フロアの案もあったし、地下ありの2フロアの案もあったし、上にゲストルームを作った時もありました。
手塚:色々なパターンがありました。森井さんはベテランで熟練しているので、変わることはわかっているんですよ。だからさっとスケッチして、ちゃんと打診はしてくれて、それでまとまっていきました。
森井: 手塚さんが周りの人に見られた時にちゃんと評価されるような、手塚さんの素敵な乗り物というイメージを持っていました。建物の持っている強さみたいなものは考えていました。
手塚:森井さんはものを作る人、僕は建物よりもロケーション、山とか鴨川の方が頭の中で意識が強い。そこに建つ建物というイメージなので、建物だけをイメージしていることはほぼない、常に上から見たり、鴨川から見たり、そういうイメージをしています。そして、建物の中で何が行われていて、人がどう動いているかそんなことを常に想像しています。
サカキ:グーグルアースで見るような?
手塚:そうです。僕はグーグルアース的な感覚と自分がドローンになったような気持ちでものを見るのが癖になっています。森井さんとは、その辺の匙加減を一生懸命キャッチボールしている感じでした。
サカキ:外観はソリッドな感じのする建物で、日本の伝統的なものを生かしながらコンテンポラリーというデザインの方向感は、最初からお考えだったのですか?
森井:京都は建物の高さの上限などがあるので、どうしてもある程度の建物の構造は決まってきます。そっくりそのルールに則ると建物のバランスが他の建物と同じようになってくる。どうしたら、そうならないようにするかは意識していました。
サカキ:手塚さんは外観のフォルムはどう考えていましたか?
手塚:フォルムは森井さんに任せる感じでした。もちろん途中で確認はしていますけど、それよりも入ってどう見えるかとかどう使えるかをいつも考えていました。
森井:広さを相当気にされていましたね。
手塚:いつも自分がガリバーになって屋根をパカっと取って、自分も中にいて、どういうふうにそこが使われているかというのを頭で映画のようにイメージして想像していくんです。
サカキ:今回も1階、2階、3階と想像されて、ギャラリーのようなスペースという方向性ができあがったのでしょうか?
手塚:最初からおぼろげには想像していましたが、進むうちに徐々に見えてきたような気がします。
サカキ:地下1階から3階まで、食とアートと芸術を中心とした多目的な力を発揮できそうですね。
手塚:物語としては、短編映画を1本撮るような、そんなイメージでしょうか。
サカキ:森井さんも同じですか?
森井:そもそもギャラリーというスペースはだいたい窓がないので。窓があるギャラリーを形にする矛盾、その矛盾を楽しむみたいなところはありました。決まっていないことがたくさんあったので試行錯誤して形にしていきました。
手塚:まさに試行錯誤でしたね。
サカキ:普通のギャラリーにはない窓はある、キッチンはある。
手塚:3階にキッチンがあるので、料理会もできます。料理を盛った器の作家さんが下で器の展覧会をして、販売するという使い方もできます。2階はちょっとした商談や茶話会ができるサロンになるようになっています。
サカキ:そもそも1階、2階、3階の3層の使い方が面白いです。機能が違うのもあるのですが、1階は立って見る、2階は座る、3階は少し高い椅子に座って食事をするというように視点が変わります。意識して設計されたのでしょうか?
森井:意識してないから返事しにくいじゃないですか(笑)
手塚:結果論です。
サカキ:外を見ると自然や日常の風景があって、反対側はギャラリーになっていて、窓が境界線みたいな縁側のようで、そういうのもとても面白いなと思います。窓があるギャラリーだからこそ成立したのでしょうか?
森井:そうですね。縁側感は限りなく意識しています。空間自体も内か外かわからない、間の場所を意識して、なるべくガラスを大きくしたのもそのためです。柱も持っていかないで、なるべく縁側感と借景は意識しました。3フロアの目線はたまたまそうなっていった感じです。
サカキ:最初に来た時に見える鴨川の景色が階ごとに違う、切り取られ方が全く変わってきます。
手塚:ここはこれで良かったですね。
サカキ:この建物で好きな部分はどこですか?
森井:全部可愛くなってくる。全部好きなんですけど。
サカキ:ここを見ろというのは?
森井:中と外の一体感かな。大きくザクっと言うと、建築の人は外が強くて中が弱かったりするし、内装をやっている人は外が弱かったりして、バランスが悪いことが多いですが、中と外を同時に考えていっているので、かなり建築と内装の見せ方、階段や空間含めて一体感があると思います。
手塚:すごくいいバランスだと思います。
森井:樋を隠しているので軒がシャープに見えていたり。
手塚:普通の雨だったら、ガラスも汚れません。
サカキ:地下1階、1、2、3階と空間の違いは意識されましたか?
森井:多少色目は変えています。2階はナチュラル、1階はニュートラル、地下は吉野杉を貼って、湿気をとりたかったので呼吸する木材を使いました。
サカキ:森井さんが苦労された点は?
森井:高さ制限かな。もう1フロア少なかったらもうちょっとゆとりがあったんですけど、これで地下含めたら4層。何かを得るときに捨てていくものがたくさんあります。トイレも最初は上にあったんですけど、地下だけになってスッキリしていきました。
手塚:本当はトイレが上にあったほうが便利なのですが、ロンドンのレストランに行ったらほとんど地下にあった。全部は満たせないですね。
サカキ:捨てていくのっていいですね。
森井:そうじゃなかったらどんどん狭くもなりますし。
手塚:予算じゃなくて構造的に削ぎ落としていく感じです(笑)
サカキ:柱、屋上、トイレとか、捨てたくなかったけど捨てざるを得なかったものってあります?
手塚:やはり屋上ですね。
森井:上に一部屋住む部屋があった案かな。ただ住んでいたら意外と見えすぎて恥ずかしかったかもしれませんね。カーテンもブラインドもついてないので。
手塚:ここに住んだら良かったというのは、今はない。住むのは別でいいです。土地の広さもあったのでできなかったですが、もう少しバックヤードがあったほうがいいなとか、ここだけバルコニーを付けたかったかなとかそういうのはたくさん出てきます。
サカキ:削ぎ落とした感じが禅を思わせるのかもしれません。
森井:だから外から見た時にきれいなんだと思います。
(後編に続く)
森井良幸
空間デザイナー・飲食店経営。
1967年京都生まれ。1996年、株式会社カフェ設立。
飲食店経営に携わるとともに、ブティックやクラブ、ダイニングやカフェなどの内装設計を手掛ける。現在は集合住宅や複合商業施設など、建築物の設計も手掛け、14店舗の飲食店を経営。
手塚清
株式会社MAIN代表取締役。
1984年、那須塩原市に株式会社庫や創業。35年にわたり「CHEESE GARDEN」を運営。
サカキテツ朗
2005年、コミュニケーションをデザインするサカキラボを設立。行動心理学に基づいたブランディングに数多く携わる。大正大学客員教授。