食に対する思いや、もてなしについて手塚清さんに話を聞きました。
(聞き手:サカキテツ朗)
サカキ:これまで食にまつわる仕事をされてきた手塚さんにとって、食とはどんなものですか?
手塚:食は人間がコミュニケーションする最高の場面です。それがゴージャスであろうが街の定食屋であろうが、最高の人間のコミュニケーションの場だと思っています。それが、食が好きな理由かもしれません。
サカキ:そうすると、1人で美味しいものを食べると言うよりは誰かと食べたいですか?
手塚:常に誰かと食べたいというのはありますね。最近は1人で食べるドラマが流行っていますね。あれはあれで面白いんだけど。
サカキ:この場にキッチンを作られたのはなぜですか?
手塚:やはりキッチンは外せなかったですね。食べることは人間にとって欠かせないものだと思うので。ただ、重いキッチンを作ってしまうとエネルギーがそこに全部行ってしまうので、最低限のキッチンでいいかなと。建物の1階でアートの展覧会などのイベントをやった時に、食があると豊かさと潤いが出ます。イベントをやって終わりではない場を作りたかったのです。
サカキ:食がメインというよりはアート主体でその余韻の中での食ということですね。ここで誰と何を食べるというイメージはありました?
手塚:趣味や未来の話、ワクワクするような話をしながら食事ができたらいいですね。
サカキ:例えば、京都だったらいいお店がいっぱいある中で、そこはもう完成された場ですが、ここは何か次を生み出すような会話が出てきそうな場所だと思いました。
手塚:人が人と出会う場所であり、共感したり、次にこれをやろうよと話せるような、何かが生まれる場所になるといいですね。
サカキ:手塚さんがつくられるところには必ずキッチンがある、オフィスも、ゲストハウスも。
手塚:いずれキッチンを主体とした何か面白い建物を作りたいです。
サカキ:手塚さん自身も料理をされますよね?
手塚:一緒に食事をする人に応じて、色々な料理を作ります。
サカキ:そういう意味ではその人のことを思って何がいいか考えながら、もてなしをされていますよね?
手塚:20代の時にアメリカでアルバイトをしていた時に、大手レンズメーカーの工場ができた際のパーティのアイデアを出して、大成功に終わったという経験があります。その時の快感は忘れられないし、僕の原点です。
サカキ:どんなアイデアだったのですか?
手塚:大きな木の根っこのオブジェやたくさんのアートを会場に持っていき、木の根の上にフードを乗せたり、アートの中を歩いてもらえるようにしました。焼肉をちょっと辛くした胡麻味噌だれで食べてもらったら、行列になりましたね。その頃からビジュアルコミュニケーションの表現をしていたのかもしれません。お客様に喜んでもらえたことが嬉しかったです。いつか、森を一つ使って森の中に思い切りキッチンを作って、アートを飾り、食とアートと自然を楽しめるような場を作れたら面白いなと思います。
サカキ:食は人を楽しませることができますね。
手塚:そうですね。そして、どんな場面でも想像力を持って自由に表現ができます。
サカキ:ゴージャスだからいいわけじゃなくて、そこに思いがあるかどうかですね。
手塚:街のとんかつ屋さんもすごいフレンチも僕にとっては同じ3つ星だと思います。
サカキ:例えば人に会う時にはどういうシチュエーションでどういう食にしようかというのは考えますか?
手塚:毎年ニセコに行くのですが、必ずキッチン付きのホテルやコテージを借ります。そしてなるべく面白いタイムスケジュールを作るようにしています。ワインも事前に送っておき、千歳でレンタカーを借りて恵庭という街のうおはんというスーパーに魚を買いに行くのですが、そこの魚が素晴らしいんです。ニセコで全部料理して、みんなでワイワイと食事します。
サカキ:もてなしのアイデアは尽きませんね。
手塚清
株式会社MAIN代表取締役。
1984年、那須塩原市に株式会社庫や創業。35年にわたり「CHEESE GARDEN」を運営。
サカキテツ朗
2005年、コミュニケーションをデザインするサカキラボを設立。行動心理学に基づいたブランディングに数多く携わる。大正大学客員教授。