執筆活動のほか、朗読や異業種とのコラボなど、多彩に活躍している詩人の菅原敏さんに詩人としての活動やきっかけなどについてお話をうかがいました。
(聞き手:手塚清、サカキテツ朗)
音楽から始まった
サカキ:詩との関わりのきっかけはどんなものですか?
菅原:音楽の作詞からですね。大学ではアメリカ文学を専攻しながら、ずっと音楽活動をしていて。作詞作曲をする中で、音楽か書き物で食べていきたいという気持ちがありました。やっていくうちに、ジャズをバックに詩を朗読するビート世代と呼ばれるアメリカの詩人たちを知り、音楽と文学の着地点として、彼らの存在に憧れたのがきっかけです。
サカキ:音楽がきっかけだったんですね。
菅原:そうですね。「枯葉」というシャンソンの歌詞をジャック・プレヴェールという詩人が書いていたり、シャンソンがフランスの詩人に触れるきっかけをくれました。シャンソン歌手で推理小説作家の戸川昌子さんが青山でシャンソニエを何十年もやっていらして。そこはかつて寺山修二さんや美輪明宏さんといった文化人が集まる文壇サロンのような場所だったのですが、そこでお酒を飲ませてもらったり、随分面倒を見てもらいました。
サカキ:今でも音楽はされるのですか?
菅原:ボーカルとサックスをやっていましたが、今はもうしていないですね。時々作詞のお仕事をいただいて、音楽との繋がりを楽しめるのが嬉しいです。
さまざまな器に詩を注ぐ
サカキ:今、どんな活動をされているのですか?
菅原:「もしも詩が水だったら」というコンセプトを軸に活動しています。詩が水だったなら、どういう器に注ぐことができるのか。その器というのは、例えば本も紙でできたひとつの器だし、インターネットもデジタルの器、ラジオという電波の器もあるし、ファッションや香りなど様々な器に詩を注ぐことができます。毎回異なる分野に詩を注いでいくことが楽しみでもあり。詩を注ぐ器のデザインとも言えると思うのですが、器の形がどういうものなのか、自分自身、刺激と発見があります。
サカキ:詩を注ぐというのは興味深いです。
菅原:詩を注ぐ器が街だったりホテルだったり、デパートの館内放送を使って詩の朗読をしたり、思っていたより色々注げるものですね。
ラジオの魅力
サカキ:ラジオ番組も担当されていたそうですね。
菅原:一日の終わりに一編の詩を街に注ぐというJ-waveの番組で、2020年2月から半年間、毎夜23時55分から5分間放送していました。
サカキ:ちょうどコロナのステイホームの時期ですね。
菅原:はい。外になかなか出られない時期でもあったので、リスナーさんを詩の朗読によって小さな散歩に連れ出せたらと思い。毎夜、東京のひとつの街を取り上げて詩を読んできたのですが、目を閉じて耳から詩を味わうと、それぞれの街の情景が立ち上ってきたり、知らない街の姿を心に描いてくれたりと、沢山の反応をいただくことができました。コロナ禍においてラジオや声の可能性について考えさせられました。
サカキ:震災の時などは特に、声の安心感や温かみがストレートに伝わるので、ラジオというメディアが近くに感じられるということを聞きました。
手塚:ラジオ、いいですよね。小林克也さんが好きだったし、「サントリー・サタデー・ウェイティング・バー」という番組もよかった。もっと前だと、「ワールド・オブ・エレガンス」という番組も好きでした。細川俊之さんの声が敏さんと同じように良くて、パリの情景が浮かんでくるような感じで、パリ好きには痺れる内容でした。それでシャンソンが好きになりました。
サカキ:私は「ジェットストリーム」をよく聴いていました。
手塚:城達也さんの声が聞こえると飛行機に乗っている気分になりますね。敏さんは聴いていたものとかありますか?
菅原:普段はさほど聞かないのですが、高校時代に寮生活をしていた時はラジオをよく聴いていました。番組に音楽をリクエストして、次の日学校で「お前の名前、呼ばれてたな」とか。嬉しかったですね、懐かしい思い出です。
手塚:ラジオはよかったです。
菅原:ぽろっと本音が出たりしますよね。
手塚:チーズガーデンの頃に、那須FMを作ろうとしたこともあります。
菅原:ラジオ局を作るっていいですね。
サカキ:やりましょうよ。
手塚:旋風を巻き起こしたら面白いですね。
菅原:京都に住んで、橋の袂からKojin FMをやりたいですね(笑)。
菅原敏
詩人。2011年、アメリカの出版社PRE/POSTより詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』でデビュー。執筆活動を軸に、異業種とのコラボレーション、ラジオやテレビでの朗読など幅広く詩を表現。アメリカ(ポートランド州立大学)、ロシア(サンクトペテルブルク・プーシキン博物館)やポーランド(ワルシャワ日本大使館)など、海外からの招聘で国際的な朗読活動も行なっている。主な講演に東京国際文芸フェス、六本木アートカレッジ、Google (US)主催のデザイン・カンファレンス「SPAN」など。Superflyや合唱曲への歌詞提供、東京藝術大学大学院との共同プロジェクト、美術家とのインスタレーションなど、音楽やアートとの接点も多い。
近年は長崎県壱岐市、福井県小浜市、広島県尾道市など地方創生やまちづくりに関わる詩作や、J-WAVE『QUIET POETRY』『NIKE LAB RADIO*』の ディレクション、香りにまつわる製品のプロデュースなど、〔もしも詩が水なら〕をテーマにさまざまな器に詩を注ぐ活動を展開している。
近著に『かのひと 超訳世界恋愛詩集』(東京新聞)、『果実は空に投げ たくさんの星をつくること』(mitosaya)、『季節を脱いで ふたりは潜る』(雷鳥社)。東京藝術大学 非常勤講師。http://sugawarabin.com/