最年少副市長として茨城県つくば市で活躍し、2022年から宇都宮に拠点を移し、さまざまな活動を行なっている毛塚幹人さん。人間禅の栃木座禅道場で自治と都市経営についてお話をうかがいました。
(聞き手 手塚清、サカキテツ朗)
サカキ コロナや子供のことがあって、自治について考えるようになりました。自治体が箱だけを作るということも多かったりして、それでいいのかとか、お金の面でもシビアになってきたりすると自治は結構難しいなと思います。
毛塚 今まで日本がやってきた自治が果たして自治だったのか、自治体や自治会を作って物事を決めて動いていくのも一つの自治の形です。一方、自治会という枠組みや自治という言葉に対するアレルギーを持つ方もいます。
サカキ 自治のあり方も意識の問題が大事なのでしょうか。
毛塚 自分が本当に大切にしたい、アイデンティティを感じられるような相手じゃないと本気で貢献するのはなかなか難しいものです。自治体は人工的につくられたものでもあり、そう思えない人が増えているのではないでしょうか?
手塚 役所の人が民間の人という言葉を使ったりもしますが、本来はみんな一緒で僕らの国、僕らの町内という考えがないといけない気がします。
サカキ 今まではゴールがあって、そこに最短で効率的に向かうのがいいという、トップダウンみたいなことが主流で、みんなディスカッションに慣れていなかったと思います。
毛塚 確かに行政の今までのスタイルですと、計画を2年とかかけて作って、パブリックコメント(意見公募)を経て決定しますが、ほとんどの人はプロセスを知りません。
手塚 2年かけて作ると古くなってしまわないのですか?
毛塚 おっしゃる通りで、行政は計画を作っている間に陳腐化していきます。よくある行政計画は1年か2年で作って、分量が50とか100ページなので、職員だけで対応できずにコンサルタントに投げることになります。そうすると他の地域と同じようなものができることも多く、誰も思い入れを持ちにくいという問題が起こります。つくば市の時にこどもの貧困対策などの新しい計画を作るとき5、6ページにして作ってみました。こどもの貧困対策のような分野横断的で行政が取り組みに慣れていない難しい政策分野ほどあえてシンプルな計画にして、政策項目を箇条書きにしてKPIもざっくりしたものにしていました。まずは小さく取り組みを始めてみてから計画をブラッシュアップしていくのが重要だと思います。
サカキ そうすると、自分のこととして考えられる気がします。最近は自分たちの考えていることを感情的にならずにフラットに話してどうすり合わせるかができるようになってきた。そのようなディスカッションが楽しいと思えるという次のフェーズに入ってきている気がします。
毛塚 議論慣れしていないと結果でプレゼンしてしまい、賛成反対に分かれて意見は変わらない。余白のあるコミュニケーションをしていかないと街はどん詰まりになると思います。
サカキ 行政と言った瞬間に人の姿が見えなくなる感じがするのですが、都市経営、シティマネジメントという言葉は人が見えて、場所が見えるイメージがあります。
毛塚 行政は英語でアドミニストレーション。さらに日本語にすると執行。行政という言葉は地域の方向性をどうにかするというのではなく、オペレーションに主眼が置かれがちです。
サカキ 人が見えてくるといいですね。
毛塚 栃木県内のある市の新入職員研修がとても魅力的で、地理に詳しい先輩職員が地形のどこが面白いかをマニアックに話しながら、街歩きを通して丁寧に街を見るということをやっています。新入職員は町の魅力も話せるようになりますし、たとえ全国10万人や1万人に刺さらなくても1000人に刺さるような尖った魅力についても学んでいく。素敵な研修をやっていると思います。自治体に就職される地元出身の方の割合も減って来ているので、地域の良さを知るというのは丁寧にやっていかなきゃいけないと思います。
手塚 新入職員をどう集めるかも面白いですね。土地オタクとか地層オタクとか。
サカキ みんな兼業するというのはどうでしょう?
毛塚 今も副業は一応できるのですが、農作業やお寺というのがほとんどで、それ以外でやる時は首長の許可が必要です。ただ、わざわざ相談する職員はいないので、ルールを整えてあげるだけでもしやすくなります。民と官が二項対立になっているという話も、変化の兆しは徐々に見られます。もっと民間業者が入ってくれたら組織のカルチャーも変わるし、コミュニケーションスタイルも変わる。自治体も徐々にトライアンドエラ―を繰り返しており、外部人材を採用するときは価値観の近い職員を配置したり、外に見えない努力をしているところも増えて来ています。
毛塚幹人
宇都宮市出身。東京大学法学部卒業後、2013年財務省に入省。2017年から4年間茨城県つくば市副市長を務める。現在は地方自治体の政策立案や経営支援に携わる。那須塩原市・さくら市市政アドバイザー、三重県DXアドバイザー。
手塚清
株式会社MAIN代表取締役。
1984年、那須塩原市に株式会社庫や創業。35年にわたり「CHEESE GARDEN」を運営。
サカキテツ朗
2005年、コミュニケーションをデザインするサカキラボを設立。行動心理学に基づいたブランディングに数多く携わる。大正大学客員教授。