「ゆらぐ be with light」キュレーター南條史生さんに聞く - intangible archivesintangible archives

「ゆらぐ be with light」キュレーター南條史生さんに聞く

京都のギャラリーkojin kyotoの柿落としとなるグループ展「ゆらぐ be with light」が5月14日から6月22日まで開催されました。落合陽一、レギーネ・シューマン、横山奈美の3人のアーティストの作品が展示されている会場で、キュレーションを務めた南條史生さんに今回のコンセプトや作品についてお話をうかがいました。(聞き手 サカキテツ朗)

光から始まる

南條 コンセプトについて、旧約聖書の中の一節「神は光あれと言われた、すると光があった。神はその光を見て、良しとされた。神は光とやみとをわけられた。」を引用しました。光がすべてのものの始まりであり、光の作品は重要だと思いました。「光あれ」を今の科学で解釈すると世界のビッグバンへのかけ声という解釈もできます。メタバース的な世界観で見ると現実は複数ある。今見えているこの現実以外にも並行して別の現実が動いている。科学的にも世界的にもゆらいでいる時代ということも含めています。
サカキ この時代だからこそのテーマなんですね。
南條 それから、皆さんのお考えの中で色々なことが繋がるようなキーワードを散りばめています。論理的なコンセプトではなく頭の中の考えのフローを詩のように書いています。3人の作品がこういうふうに繋がってこないかなという緩いコンセプトです。
サカキ 読まれる方によって引っかかってくるキーワードが違ってもいいですね。
南條 京都に新しい宝石箱ができた。宝石箱の宝石がキラキラ光る煌めき、光という連想もできます。
サカキ 「ゆらぐ」という言葉から入る人もいます。
南條 実際にはあまりゆらいでない(笑)動かないものもあるわけで。解釈はゆらぎます。例えばレギーネの作品は光のまわりのありようで見え方が変わってくる。単体のものとしてではなく、何かしらの状況によって見え方が違ってきます。横山さんの作品はペインティングという変わらないものだけど、描かれているのはネオン管で作られた文字である。ネオンを描いている、ペインティングと書いている。意味のトートロジーは何なのか? 現実にはネオンではない、ネオンはどこにあるかというと、このアーティストはネオンを作っているのに絶対に見せない。ネオンというものとペインティングの関係はどうなっているのか?なぜネオンを見せないのか?という疑問が浮かび上がることによって色々なことがゆらぐ。というような極めて概念的なことが表現されています。
サカキ なるほど。kojin kyotoという場所はいかがですか?
南條 素晴らしい場所ですよね。ロケーションとしても象徴的な場所です。道の交差点のところ、なおかつそれが遠くから見えて、ガラスの箱になっているということで私はそれをかなり意識して今回の展覧会を作りました。というのは橋の方から夜見たら光っているものが見える、あれはなんだとみんなが思っている。何かが光っている状態を作ると箱の新しい存在のあり方が見えてくるのではないかという意味を持ってここを捉えました。
サカキ 今のキーワードやイメージが浮かんで、今回の展示ができたんですね。
南條 まだまだこういったコンセプトにはまるアーティストはいると思いますが、今回は日本人で活躍なさっている落合陽一さん、一方でレギーネさんはドイツ人で昔から私は知っている、今回日本で、特に京都で紹介したいと思いました。横山美奈さんは若い方で彼女のコンセプチャルな作品を見てくださいというものです。会場としても3階はセッティングが違い、食事の場所でもある。ホワイトキューブではないところにうまく収まるようなペインティングを持ってきたということでそれぞれ理由があります。

作品を知る

サカキ それぞれのアーティストの作品について解説していただきましょう。落合さんの作品についてはいかがですか?
南條 これは揺らいでいます。写真が1点だけありますが、浮かんでいる金属の物体がある。磁力で浮かび上がって空中でゆっくり回転します。一度展示したことがあるんですが非常にデリケートな作品で、磁力で弾かれてしまうので、今回は断念しました。象徴的なイメージとしてここに持ってきました。この回転している作品を近くから撮るという作品、つまり彫刻のミラーフィニッシュの表面に写っているものが非常に抽象的な状態でそれを作品にしたのがこのシリーズです。
サカキ 場所が違うのですか?
南條 場所と回転の仕方が違います。だんだん変化していく。最後にそれを静止画にしたものがこちらです。絵画のようなオイルペインティングのような盛り上がりを見せています。回転している、動いている動画で見せるのが筋のようですが一瞬をとどめて絵画的表現も作品にしています。
サカキ 回転と共に一瞬を切り取る作品なんですね。
南條 液晶モニターではなく、LEDの粒が並んでいる、通常のモニターよりもずっと輝度が高いものを使っています。

サカキ 2階のレギーネさんの作品は?
南條 蛍光塗料を混ぜたアクリル板を使って平面の作品を彫刻的に作っています。そこにブラックライトが当たると蛍光塗料が光る。実施は光源が中になくてもまるで光源を持っているかのような作品で、現代の科学技術がなければできなかったもので、そういう意味ではテーマにはまってきます。元々美術というのは外からくる光を受けてものを見る。それ自体が光るという作品もどんどん増えてきています。電球、蛍光管、プロジェクション、LED モニターなど色々な形の技術が増えている中で、光の効果によってそれ自体が光っているという新しい在り方を提示している。実際にすごく綺麗、デザイン的でもあるし微妙な色合いとか周囲の自然光の状態で変わってくる 夜見るのと昼間見るのは違います。
サカキ 見る時間角度によって揺らぎが生まれる。
南條 普通の居住空間に一つ赤い作品があっても綺麗だと思うし、そういう楽しみ方もある。ドイツ人らしい作品です。5年以上前にアートフェアで作品を買って自分の部屋に飾っています。そういう縁もあります。
サカキ それは何色ですか?
南條 ピンク系です。
サカキ 毎日ご覧になっているんですね。
南條 はい、毎日ピンクを見ています。

サカキ 3階には横山さんの作品があります。
南條 先ほども少し説明しましたが、まずネオンを作り、そのネオンを置いてそれを見ながら描いています。極めてよく描けているので、一瞬手前にネオンのチューブがあるのかなと思ってしまう。ペインティングが最終作品でネオンは見せません。こちらは窓が表現されている。窓はアナザーワールド、世界への憧れを象徴するようなモチーフで、ロマン派の画家が結構描いていて、それとの繋がりも感じられます。昔、ジョゼフ・コスースというアーティストが、壁の脇に椅子を置いて椅子の脇にその椅子の写真を置いて、さらにその横に辞書に書いてある椅子という言葉の定義を置いた作品を作りました。リアルとイメージと言語的な定義の3つが展示される状態を作って椅子とは何か、ペインティングとは何かという大きな問いに繋がっています。
サカキ 固定概念がゆらぎ始めるような感覚になります。

2階に展示されているレギーネ・シューマンの作品。

南條史生
1949年東京生まれ。1972年慶應義塾大学経済学部、1977年文学部哲学科美学美術史学専攻卒業。1978-86年国際交流基金、1986-90年ICAナゴヤディレクター、1990年-2002年及び2014年-エヌ・アンド・エー(株)代表取締役、2002-06年森美術館副館長、2006年11月-2019年同館館長、2020年-同館特別顧問。https://nanjo.com/

サカキテツ朗
2005年、コミュニケーションをデザインするサカキラボを設立。行動心理学に基づいたブランディングに数多く携わる。大正大学客員教授。