アーカイブを考える - intangible archivesintangible archives

アーカイブを考える

保存や収蔵の必要性、そして保存することと見せることはどのように両立できるのか?
建築家の石田建太朗さんとヒントを探ります。(聞き手:サカキテツ朗)

思考のプロセスを見せる

サカキ:石田さんがいらしたスイスの建築設計事務所「ヘルツォーク&ド・ムーロン」の取り組みで、模型を収蔵して展示もできる施設がありますね。
石田:バーゼルの工業地帯だったエリアにヘルシンキ・ドライシュピッツという建物があります。そこは上階が集合住宅ですが低層階にヘルツォーク&ド・ムーロンが1978年に設立されてから蓄積されてきた模型やドローイングなどがアーカイブされています。プロジェクトを進めていくうえで、デザインチームが試行錯誤して色々な方向性を試す中、様々なスタディ模型ができます。プロジェクトが実現するとそれらのほとんどが捨てられてしまいますが、ジャックとピエールにとっては大切な思考のプロセスの産物なのです。その膨大な量の模型を段ボールやクレートにしまうのではなく、すべて棚やディスプレイに展示することによってプロジェクトごとにデザインのプロセスを見ることができます。一般には公開されていませんが、いずれリサーチ目的の研究者などに公開していくようです。
サカキ:単なる収蔵庫というよりはワークショップ、研究所だったりディベートする場になったりするのですね。
石田:同じドライシュピッツのエリアにシャウラガーという美術館があって、ローレンツ財団の現代美術コレクションを収蔵・研究・展示するための施設です。Schaulagerは「見る」「収蔵する」というドイツ語を組み合わせた造語です。シャウラガーは年の半分だけ現代美術の展覧会として開館していますが、残りの半分は現代美術の収蔵庫として機能しています。こちらもコレクションの作品は箱の中にしまっているのではなく、年代ごとや作家ごとに分類されセルといわれる小部屋に密度高く壁に展示されています。現在は研究者やアカデミックに予約制で公開しています。アートバーゼルの季節、6月の少し前から、ブルース・ナウマンやフランシス・アリスなどのアーティストの展覧会を特別展示会場で行います。収蔵してしまうと目に見えなくなり、ドキュメントでしか確認できないですが、コレクションされている作品を実際に見ることができる施設です。

過去に囚われない

サカキ:石田さん自身、アーカイブしているものは?
石田:幼少のころから引っ越しが多く、モノに固執しないせいか今までアーカイヴしたことはあまりないですね。建築関係の書籍とかは部数が少ないので、ロンドンで留学していた時など、その時代で手に入るものはなるべく買うようにはしていますが。
サカキ:例えば過去に手掛けられてきた作品の資料とかは?
石田:事務所の中は本当にカオスですね(笑)。ペーパーレスの時代で、法的にとっておかないといけないものなども含め早くデジタルに移行していきたいですが、全く進んでいません(笑)。当時のスケッチや模型などは、ちゃんと編集してアーカイブしていかなければなと思っています。放っておくとスケッチや模型はどんどん朽ちていきますからね。自分のなかでもアーカイブはデザインの思考を整理する行為に近いのかなと思います。

※ヘルツォーク&ド・ムーロン スイス・バーゼル出身のジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンの2人による建築家ユニット。代表作はテートモダン、北京五輪スタジアム、プラダブティック青山店など。

石田建太朗 
建築家 / イシダアーキテクツスタジオ株式会社代表
1973年生まれ。ロンドンのArchitectural Association School of Architecture(AAスクール)にて建築を学び、2004年から12年までスイスの建築設計事務所ヘルツォーク&ド・ムーロンに勤務。同社アソシエイトとしてペレス・アート・ミュージアム・マイアミ(マイアミ現代美術館)など国際的なプロジェクトのプロジェクト・マネジメント及びリード・デザイナーを務める。2012年に東京に拠点を移しイシダアーキテクツスタジオ株式会社を設立。東京工業大学特任准教授。
https://www.kias.co.jp

サカキテツ朗
2005年、コミュニケーションをデザインするサカキラボを設立。行動心理学に基づいたブランディングに数多く携わる。大正大学客員教授。